ギターとサウンド


師匠にレッスンを受けているところを、地元の新聞に取材を受けました。

   
「ギターで一番大切な事は音色である」
3年半のスペイン滞在中、幾度となく聞かされた言葉。
その言葉の真意をレッスンで、コンサートで身を以て示してくれた最後の巨匠、ホセ・ルイス。
今後二度と現れないであろう、たった1音で人々に感動を与える事の出来るギタリスト。
   
ギタリストの両手を称して、「左手は職人、右手は芸術家」と言う言葉があります。
音程を決める左手と、音色、歌いまわしを司る右手という訳です。
しかしホセ・ルイスから学んだ最大の収穫は、「最終的な音色、音楽は左手で決まる」という事。
弾いた瞬間に音が減衰していく楽器であるギターの最も難しい点は、いかにして音と音の間を
繋いでいくかという事に尽きます。
つまり、音を出した後の左手の処理に音楽の秘密が隠されているという事です。
ビブラートをかけるのか、あるいはかけないのか(ホセ・ルイスは誰にもまねの出来ない強力かつ
繊細なそれを持っていました)、運指上どうしても音が途切れてしまう所をどうすれば繋がって
聞かせられるのか等、ただ正確に音を出す事で手一杯だった自分には正に目から鱗の連続でした。
ホセ・ルイスの頭の中で鳴り響いていた音楽。それは昨今の鍵盤楽器的アプローチとは対極の、
旋律楽器としてのギターの利点を最大限活かしたものでした。
ある程度ギターを弾いていると分かってくる事ですが、不完全な平均律楽器であるギターは、
ただ目的のフレットを押さえただけでは正確なピッチは得られません。(特にハイポジション)
ヴァイオリニストが純正調で演奏するのと同様の、左手によるコントロールが必要とされます。
非常に耳の良かったホセ・ルイスは、単旋律はもちろん和音を弾く時でさえ、ある1音だけ
ピッチを上げたり下げたりして、限り無く純正調に近い響きを生み出していました。
ホセ・ルイスは、常に完璧な演奏が出来るタイプの音楽家ではありませんでした。
緊張を強いられる大ホールよりも、リラックスした内輪での演奏にその真髄があった事も
多くの人が認める所です。
今思うにそれはホセ・ルイスが、出来上がった音楽を自らなぞる事を潔しとしなかった、
つまり常にその場で新しい音楽を創り上げようとしていたからではないかと考えます。

   

Maestro:JOSE LUIS GONZALES
(1932~1998)


 

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